どうも野球好きのためのフォーラムサイトgeek894.com管理人の894です。
今回は、最近MLBを中心に話題になっている「フライボールレボリューション(FBR)」について少し調べてみたので、自分なりに理解できた点についてまとめてみようと思います。
私もまだまだ勉強中のみなので間違っている点などあると思いますが、気になった点についてはコメント欄などから教えて頂けるとありがたいです。
フライボールレボリューション(FBR)とは
「フライボールレボリューション:Fly Ball Revolution(FBR) 」とは、最近メジャーリーグで流行し始めた新たなバッティング理論です。
その名のとおり、「フライをバンバン打とうぜ!」という方向の理論だそうで、その主軸には「ゴロを打つよりもフライを上げたほうが得をする」という考え方があるようです。
数字を使った検証でも有用性が証明されているだけでなく、実際にMLBの打者たちがフライをあげるためのトレーニングをしていることも話題になっています。
Just say NO…. to ground balls. #MLB #striveforexcellence pic.twitter.com/6YANrOZHQE
— Josh Donaldson (@BringerOfRain20) March 1, 2017
この練習風景を見てもわかるように、あえてボールの芯より下側を叩いてボールを上にあげているのが特徴的です。
打倒「ダウンスイングで転がせ」理論
従来の日本の野球指導の場では「ボールは上から叩いて転がせ!」と言われ続けてきました。
(私はバレー部だったので実際に言われた経験はありませんが(笑))
近年では、ダウンスイングよりもレベルもしくはアッパー気味のスイングの方がヒットに繋がりやすいと指摘され始めていますが、未だに少年野球などのアマチュアの現場ではダウンスイング信仰が根強いのかもしれませんね。
実際ランナーが3塁に居る状況などのケースバッティングを求められる状況では、フライを上げるよりもランナーを確実に返すためにあえてゴロを転がすといった技術が求められたりすることを考えるとあながち無用の長物な理論でもないとは思います。
しかしながら、そういった考え方に真正面から異を唱えるのがこのフライボールレボリューションです。
ゴロを転がしてもヒットや得点につながりにくいことを強く主張している点も特徴の一つです。
打球の速度と角度の関係
この記事を読まれている方のほとんどがこの画像をご覧になったことがあるでしょう。
この画像は打球角度と打球速度の関係を図示したものです。
- Barrel Zone:バットの芯(?)(よく飛ぶところという意味?)
- Velocity:打球速度
- Launch Angle:打球の角度
追記:
バレルゾーンとはボールを遠くに飛ばしやすくする角度のことのようです。
打球速度が早ければ早いほどバレルゾーンが広くなるという関係にあります。
これについてMLBのアナリストであるMike Petriello氏がMLB.comの動画で解説しています。
英語なのでよくわかりませんが(笑)
動画の中盤あたりからCHC(シカゴ・カブス)のクリス・ブライアント選手の実際の映像を用いて具体的な数字とともに解説されています。
左から31度の角度の打球がホームランになる映像・5度の打球がゴロになりアウトになる映像・50度の打球がフライアウトになる映像の順です。
これらはすべてほぼ同じ打球速度にも関わらず打球角度が違うため大きく異なる結果になっています。
より遠くへボールを飛ばすには30度程度の打球角度が最も適しているということで、現在では多くの打者が徹底してこのような打球を飛ばすためのトレーニングを行っているそうです。
FBR理論の再現性
いくら理論が正しくとも、その通りにやって結果が出なければ意味がありあません。
このフライボールレボリューションの理論はどの程度の再現性があるのでしょうか?
まぁこれについてはいつかまたしっかりと検証するとしまして…
とりあえず今季の打撃ランキングの上位5人の昨季と今季のHR/FBとOPSを比較してみました。
(2017年のデータは6/26時点)

2016[HR/FB] | 2017[HR/FB] | 2016[OPS] | 2017[OPS] | |
Aaron Judge | 18% | 42% | 0.608 | 1.139 |
Goldschmidt | 19% | 22% | 0.899 | 1.053 |
CoreySeager | 18% | 17% | 0.877 | 0.908 |
Jose Altuve | 13% | 14% | 0.928 | 0.913 |
AnthonyRendon | 10% | 15% | 0.797 | 0.933 |
上げたフライの内ホームランになっている割合を調べてみると、ほぼ全ての選手が昨季よりもHR/FBを大きく伸ばしてることがわかります。
それに比例するようにOPSも向上していますね。
特にNYYのアーロン・ジャッジの数字の上がり具合はすごいものがありますね。
’16[GB/FB] | ’17[GB/FB] | ’16[FB%] | ’17[FB%] | ’17-’16[LD%] | |
Aaron Judge | 0.68 | 1.02 | 51% | 37% | +11% |
Goldschmidt | 1.61 | 1.1 | 29% | 39% | -6% |
CoreySeager | 1.58 | 1.11 | 29% | 36% | +1% |
Jose Altuve | 1.29 | 1.56 | 32% | 32% | -8% |
AnthonyRendon | 0.82 | 0.81 | 44% | 46% | -5% |
ついでにゴロとフライの割合についても調べてみました。
これについてはあまり一貫性が見られませんね。
ゴロが増えた選手がいれば、フライが増えた選手もいるようです。
フライが増えた選手としてはARIのゴールドシュミットとLADのシーガー、WSHのレンドンです。
彼らはフライの割合を増やすことで実際にOPSを増やすことに成功しています。
これまたついでですが、ライナー性の当たりが昨季と比べてどの程度の変化があったのかも調べてみています。
一番伸び率が大きかったのはこれまたアーロン・ジャッジですね。
一般的にライナー性のあたりが増えれば増えるほどヒットになる確率が高いと言われています。
(実際のライナーのアウト確率は見つけることができなかったのですみません…)
フライボールレボリューションによって、フライを打つことを意識するとライナー性の当たりが増えることもあるのかな?
もちろんここに挙げた選手全員がFBRを実践しているかどうかは定かではありませんが、実際にOPSを向上させた選手の多くがフライの比率を向上させ、その中でホームランの割合も増やしていることがわかりました。
FBRの投手への影響
個人的になんとなく感じているのは、今季になって日本人ピッチャーが軒並み打たれ始めたのが気になっています。
特に顕著なのがNYYの田中将大投手でしょうか。
この表は6/24の登板後のデータを抜き出したものです。
(ダルビッシュ投手との凄まじ投手戦のあとのデータです(笑))
年度 | GB% | FB% | HR/FB | HR/9 | BB/9 | K/9 | BABIP | ERA(防御率) |
2014 | 47% | 29% | 14% | 0.99 | 1.39 | 9.31 | 0.299 | 2.77 |
2015 | 47% | 34% | 17% | 1.46 | 1.58 | 8.12 | 0.242 | 3.51 |
2016 | 48% | 31% | 12% | 0.99 | 1.62 | 7.44 | 0.271 | 3.07 |
2017 | 48% | 34% | 24% | 2.23 | 2.44 | 9.04 | 0.315 | 5.74 |
Total | 48% | 32% | 16% | 1.30 | 1.68 | 8.30 | 0.276 | 3.51 |
出典:Masahiro Tanaka » Statistics » Pitching | FanGraphs Baseball
この表を見てみると、今期に入ってからGB%やK/9、FB%にはほとんど悪化は見られないものの、HR/9や防御率が異常に悪化しているのがわかります。
ホームランを打たれることが増えたせいか四球も増えていますね。
これがおそらくフライボールレボリューションによる投手への影響で、昨年までならフライで打ち取ったはずのあたりがホームランになっているのではないかと思います。
打たれたフライの何%がホームランになっているのかをHR/FBを見て確認してみると、今季は昨季に比べて12%もホームランが増えていることがわかります。
年度 | GB% | FB% | HR/FB | HR/9 | BB/9 | K/9 | BABIP | ERA(防御率) |
2008 | 48% | 31% | 12% | 0.92 | 4.35 | 8.36 | 0.320 | 4.26 |
2009 | 39% | 42% | 4% | 0.37 | 4.79 | 9.74 | 0.269 | 2.79 |
2010 | 40% | 42% | 6% | 0.57 | 3.57 | 9.34 | 0.275 | 2.91 |
2011 | 43% | 39% | 7% | 0.58 | 2.08 | 9.57 | 0.269 | 2.28 |
2012 | 47% | 34% | 8% | 0.63 | 2.49 | 9.05 | 0.262 | 2.53 |
2013 | 46% | 31% | 6% | 0.42 | 1.98 | 8.85 | 0.251 | 1.83 |
2014 | 52% | 29% | 7% | 0.41 | 1.41 | 10.85 | 0.278 | 1.77 |
2015 | 50% | 28% | 10% | 0.58 | 1.62 | 11.64 | 0.281 | 2.13 |
2016 | 49% | 30% | 8% | 0.48 | 0.66 | 10.39 | 0.254 | 1.69 |
2017 | 45% | 35% | 18% | 1.40 | 1.48 | 10.13 | 0.250 | 2.47 |
Total | 46% | 34% | 8% | 0.59 | 2.38 | 9.83 | 0.270 | 2.37 |
出典:Clayton Kershaw » Statistics » Pitching | FanGraphs Baseball
(6/26時点)
同じようにLADのエースで過去3度のサイ・ヤング賞を受賞しているクレイトン・カーショウの例を見てみましょう。
彼は現在のMLBを代表する素晴らしい投手ですが、今季の成績を見てみると田中投手と同じようにHR/FBが10%も上がっています。
防御率自体は現在でも優秀な点はさすがです。
ちゃんとした検証ではありませんがまったく無関係とも言えなさそうなので、フライボールレボリューションの再現性はそれなりにあるのかもしれません。
(もちろん単純に両投手が不調なだけの可能性もあるけど、ほかの投手とかを見るに単なる不調だけとも考えにくい気がする。にしても曖昧な言い方にも程があるな(笑))
ゴロを打つよりフライを上げたほうが本当に得なのか
ゴロを打つよりもフライを打った方が得だというのはどうしてでしょうか?
主な理由としては、ゴロよりもフライの方がアウトになる確率が低く、フライの比率を上げたほうがOPSを向上させやすいからです。
これについて詳しく分析した記事として個人的にはこの方の記事がかなり参考になりました。
フライボールレボリューションについてOPSとの相関から分析していくという連載なのですが、非常に興味深い内容です。
一部引用させていただきます。
- LD:GBを変えない、BIP%を変えないという条件下だが、HR/FBが10.2%程度あればFBを増やすことに意味が出てくる。
- これはMLBの規定以上の打者だと3/4の選手が当てはまる。
- 過去は3%程度だったとして、実用的ではなかったが、各種解析・技術革新等で、実用ラインが大きく下がった。
- 革命です確かに。
確かにある程度の条件下でのことですが、フライの総数に占めるホームラン数の割合が10.2%を超えていればOPSそのものを向上させる可能性があると指摘しています。

MLBで規定打席に到達している打者の3/4の選手がフライを増やすだけでOPSが向上するというのだからそりゃ実践しますよね(笑)
次の投手視点からの項目でも書きますが、ゴロを打つよりもフライを打ったほうがアウトになる確率は低くなります。
当然、アウトにならなければ出塁率が向上しますし、より遠くにボールを飛ばせるようになれば長打率の向上も狙えます。
ゴロを転がした内野安打2本だとゲッツーの可能性がありますが、外野にボールを飛ばせばホームランや犠牲フライの可能性も増えます。
必死に内野安打を打ってシングルヒットにするよりも、できるだけ遠くにフライを飛ばすことを意識して二塁打にした方が得点効率が高くなるのは明らかです。
意識して遠くにフライを打つことでゴロに比べてアウトになりにくくなり、OPSが向上することでチームの勝利への貢献度も高まるというわけです。
言うのは簡単だけど本当に実践しちゃったんだからすごい…革命というのは言い過ぎではありませんね。
投手評価においてもゴロを打たせる投手が評価されている
近年、投手評価においてもフライを打たれやすいピッチャーよりゴロを打たせるピッチャーの方が評価されたりもしています。
昨年引退した黒田博樹投手はその典型的な例で、MLBに渡ってからツーシームを軸とした投球を覚えゴロを量産しました。
これを測る指標として、ゴロフライ比率(GB/FB)というものがあります。
この計算方法は単純で、ゴロ(Ground Ball:GB)の総数をフライ(Fly Ball:FB)の総数で割るだけです。
ゴロとフライが同数であれば1になり、1より大きくなればゴロを打たせる割合が多いと評価されます。
みんな大好きWikipediaによるとGB/FBの平均値は1.08だそうです。
実際に、黒田博樹投手の例で見てみると以下のようになります。
年 | チーム | GB | GB/FB | GB% | FB% | LD% |
2008 | LAD | 31 | 1.79 | 51% | 29% | 20% |
2009 | LAD | 21 | 1.49 | 50% | 33% | 17% |
2010 | LAD | 31 | 1.59 | 51% | 32% | 17% |
2011 | LAD | 32 | 1.24 | 43% | 35% | 22% |
2012 | NYY | 33 | 1.77 | 52% | 30% | 18% |
2013 | NYY | 32 | 1.49 | 47% | 31% | 22% |
2014 | NYY | 32 | 1.46 | 47% | 32% | 21% |
Total | – | 212 | 1.54 | 49% | 32% | 20% |
出典:Hiroki Kuroda » Statistics » Pitching | FanGraphs Baseball
せっかくなのでゴロの比率だけでなくフライやライナー(Line drive)の値も載せています。
これをみれば確かに黒田投手がゴロを多く打たせていたことがわかりますね。
すべての打球のうちゴロの占める割合(GB%)は通算でも49%と実に半分近くの打球をゴロにしており、GB%の平均が43~45%ということを考えるとほかの投手に比べてより多くゴロを打たせていたことは事実なようです。
フライよりもゴロの方がアウトになりやすい
どうして投手がゴロを打たせたほうが得なのかというと「ゴロの方がフライやライナーに比べてアウトになりやすいから」ということがあります。
ベースボールドットコムのコラムによると、フライのアウト確立が63%であるのに対しゴロがアウトになる確率は77%と、ゴロかフライかでアウトになる確率が実に14%も違います。
(2013年のNPBのデータ)
14%でピンと来ない方は実際の数字に当てはめてみるといいかもしれません。
このようにピッチャーサイドからもゴロを打たれるよりフライを打たれる方が嫌なのです。
落合博満のバッティング理論
これまでにこのフライボールレボリューションを実践していた人がいなかったのかというとそうではありません。
単純に現在のように体系的にまとめられていなかったというだけで、自らの感覚でフライボールレボリューションを実践していた打者はいたはずです。
個人的にそのひとりじゃないかなと思うのがミスター三冠王こと落合博満選手です。
この動画は、落合氏がホームランを打つコツを伝授するという企画なのですが、その練習法にはフライボールレボリューションに通じるものがあると感じています。
動画内で落合氏が指摘しているポイントは「ボールの芯より下を捉えてフライを上げる」という点のみです。
これってまさしくフライボールレボリューションじゃないですか?
このような練習法を取り入れているとされるバッターはほかにもいて、西武の中村剛也選手などもその一人です。
(「ヒットはホームランの打ち損じ」なんて発言もあったような…)
これまでデータで示せていなかっただけで、既に多くのホームランバッターがフライを打つことの重要性に気づいていたんじゃないかなと思います。
最後に
フライボールレボリューションの何がすごいところは「これまで感覚でしかわからなかった点をデータではっきりと示せた点」と「それを実行するためのメソッドが構築されつつある点」ではないでしょうか。
やはりデータ利用に関してはMLBが100歩くらい先を歩いていますね。
今後、このような考え方がNPBにも浸透し始めた時に野球がどのように変わるのかが楽しみです。
今回はしっかりとした検証を行うことができませんでしたが、またいつか気が向いたら挑戦してみようと思います(笑)
コメント